第33回 JAUSワークショップ開催報告
- By: ワークショップ担当
- カテゴリー: JAUSワークショップ, トピックス
5月28日(金)19:30~、第33回JAUSワークショップをオンラインで開催しました。今回は新井章吾さん(海藻研究所所長)に、「温暖化を背景に急激に進行する磯焼けと磯荒れ」についてお話いただきました。日本全国の藻場の調査研究を手がける新井さんは金沢からリモートで登壇です。参加者も北海道から沖縄まで、日本全国からご視聴いただきました。発表のダイジェストを紹介します。
磯焼け、磯荒れとは
沿岸域に広がる藻場は、多くの生き物の棲み家となり、魚の稚魚が成育する大切な場所です。しかし、近年温暖化を背景に、藻場やサンゴ礁が衰退する磯焼けや磯荒れが急激に進行し、地域によっては危機的な状況です。
磯焼けは、アワビや魚が棲めなくなるほど海藻が生えなくなる状態と定義されています。近年は、藻食魚のアイゴが南から分布を広げ、海藻を食べ尽くしながら北上しています。温暖化を背景にアイゴが勢力を拡大し、藻場が衰退しています。
一方の磯荒れは、岩場や砂地などに浮泥が積もることで、海藻の胞子やサンゴが着底できなくなります。砂地でも同様に浮泥が堆積すると、アサリの幼生が着底できません。こうした物理的な阻害によって、磯が荒れる現象が全国各地で広がっています。磯荒れは内湾で発生しやすい現象です。
温暖化で勢力を拡大するアイゴ
温暖化によりアイゴの群れが北上しているのではないかと、2006年に各地で聞き取り調査を行いました。オレンジのラインが2000年ごろの冬季のアイゴの成魚の北限、ピンクのラインが2006年です。かなり北上していますが、2021年になると能登半島の東海岸で越冬したアイゴの群れが確認されています。アイゴは冬でも水温が下がりにくい日本海や九州沿岸で勢力を拡大しています。アイゴは渡り鳥のように大きな群れを形成して藻場に現れ、あっという間に海藻が食べ尽くされるのを地元のダイバーが目撃しています。イスズミやブダイも海藻を食べますが、大きな被害を与えているのはアイゴです。
磯焼けを食い止めるには
対処療法ですが、アイゴを捕って食べることです。沖縄から九州にかけては、高級魚として珍重されています。瀬戸内海などでも局所的にお刺身を食べるところがあります。魚価が安いことで数を減らすまでには至っていませんが、漁業者が捕って流通させ、高く売れれば、恒常的にアイゴは捕られ、藻場を守ることにつながります。
人工的に藻場を造成することはできるか
藻場造成はいろんな所で、いろんな方法で行われています。これまでの調査で、潮当たりのいい場所、水温の変動の大きい場所、海底に砂が積もらない場所など条件が整った場所であることに加え、海藻には隆盛期と衰退期があるので、隆盛期に条件が整った場所に造成すれば不可能ではないかもしれません。ただし、いくら条件のいい場所でも、海藻の衰退期には藻場を再生することはできませんし、条件の整わない場所では、藻場を造成しても海藻は生えてきません。藻場が再生したという報告書や論文もありますが、上手く行った例だけを取り上げているものです。
山が荒れると磯も荒れる
最近、山の保水力が低下し、雨が降ると荒廃した里山から泥が流出しています。泥は海では綿くずのような形状になり、それが寄り集まって「巨視的有機浮遊物」となります。こうした有機物が海底に積もってしまうと海藻は生えません。
一方で、海底から湧き水が出ている場所は、泥が堆積せずに海藻が生えています。湧水の中には、海藻の生育に不可欠な酸素とミネラルが含まれています。山や里山が荒廃して保水力がなくなると、海の湧き水も少なくなってしまいます。山の保水力が上がれば、海底の湧水の量も増え、海藻が生え、アサリも回復します。
最近手がけていること
今、仲間と取り組んでいるのが、山の水循環を良くすることです。海藻を肥料として活用したり、土壌の浸水性の回復に取り組んだりして、地下の水循環の再生しようとしています。水の循環がよくなると、農地では生産力が高まり、川では生物が豊かになる。沿岸部の魚付き林や海岸保安林、砂浜などがあれば、地下を淡水がゆっくり海へ移動します。山から海への水循環を取り戻すことが、磯焼けや磯荒れから海を再生することにつながります。
レジャーで潜る人にお願いしたいのが、海中で環境が悪化している所を見たら、その状況を伝えてください。悪い状況が研究者の目に留まると、そこから改善につながる研究が進むかもしれません。ぜひ、情報発信をお願いします。
インフォメーション
ワークショップのアーカイブをYouTube「JAUS TV」で公開していますので、ぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/channel/UCag7TAs8GOiAIXtOKwpvOVA