日本水中科学協会Japanese Academy of Underwater Sciences
プライマリーコース 基準
日本水中科学協会理事 久保彰良
T. コースの目的:
1. JAUSプライマリー・コースは、すでに認定されたすべてのダイバーを対象に、JAUSが定義するダイビング活動に参加するために求められる最小限必要な技能の所有者であるか否かを判定するために設計されている。
2. さらに上級のJAUSのコースまたはプログラムに進むための基礎となるコースである。
U. 参加前条件:
1. JAUSの活動会員以上の資格。
2.
満18歳以上であること。
3. 認知されたダイバー認定組織のエントリー・レベル以上、または同等の資格を有すること。
4. ダイビングの健康適格者であること。
5. 自己申告の「病歴書」を提出する。ただし病歴がある場合には医師の「診断書」を提出しなければならない。
6.
自己責任でダイビング活動をすることを明らかにするために、ダイビングの「危険の引き受けと免責に同意する文書」を提出する。
7. CPR/AED/ファーストエイド・トレーニングを修了していることが望ましい。
8. DAN酸素供給法、または同等のトレーニング修了していることが望ましい。
9. 非喫煙者であること。
V. インストラクターの資格:
1. このコースを開催するインストラクターは、JAUSプライマリー・インストラクター資格所有者でなければならない。
W. コース期間:
1. 2日間以上。
2. 連続して開催することが望ましい。止むを得ず連続して開催できない場合は、コース開始から終了まで3カ月以内に終えなければならない。
X. コースの限界:
1. オープン・ウォーターで開催する場合、参加者とインストラクターの人数比は4:1を超えてはならない。アシスタントを追加しても最大人数比を増加することはできない。
2. プールで開催する場合、参加者とインストラクターの人数比は6:1を超えてはならない。アシスタントを追加すれば最大人数比を8:1に増加できる。
3. コースを開催する環境は、深度2m以上のプール、透明度が良く流れのない穏やかな限定されたオープン・ウォーターで開催しなければならない。
4. 最大深度は18mとし減圧停止不要限界内で行う。
5.
閉鎖環境下、夜間または極度の視界不良環境で開催してはならない。
6. 参加者がエンリチド・エア・ナイトロックス認定を有する場合、呼吸ガスとして酸素分圧が1.4ATAの範囲内で、かつ酸素割合が40%未満のエンリチド・エア・ナイトロックスを使用できる。
7.
上記項目4の場合、インストラクターは認知された団体のエンリッチド・エア・ナイトロックス・インストラクターまたは同等の資格を有すること。
Y. コースの概要:
1. 運営はクラスでの知識開発、陸上でのドリル、ダイビング実習を柔軟に組み合わせて展開される。このコースは、参加者が、中性浮力を制御して正しくトリムを維持し、推進技術を磨き、チームでダイビングを行い、快適にダイビング活動を行えるように指導し、将来あらゆる種類のダイビング活動に参加するための確固たる技能の基礎を習得することに焦点を合わせている。
2. コースは6時間の知識開発と4回以上のダイビングで構成し、最初の2回のダイビングは基礎スキルの開発に最大の焦点を合わせ、水深9m以浅で行う。
Z. 必要器材:
1. マスク、スノーケル、フィン
2. 保護スーツと関連するアクセサリー
3. ウエイト(必要であれば)
4. タンクとバルブ
5. BCDまたはハーネスとウイング
6. 予備のエア・ソースと残圧計付のレギュレーター
*上記はボルト・スナップ、クリップその他類似するものでBCDまたはハーネスに取り付けられていること
7.
深度計と時計およびダイブテーブル、またはダイブ・コンピューター
8. コンパス
9. 水中ノートまたはスレート
10. ライト
11. ナイフまたはカッティング・ツール
12. サーフェス・マーカー・ブイとスプールまたはリール
13. ホイッスルまたはエア・ホーン
14. スイミング・ゴーグルと水着
*上記は、泳力評価時に使用する
[. インストラクターの器材:
上記に掲げるダイバーの必要器材に加え、以下の器材を現場に備えなければならない。
1. 水面浮標と潜行浮上のための指標ライン
2. 緊急用酸素吸入器材
3. ファースト・エイド・キット
4. 緊急呼び出しのための電話、無線などの連絡手段
5. 潜水計画書
\. 知識開発の概要:
1. JAUS紹介
2. JAUSプライマリー・コースの目的と概要
3. 浮力調整とトリム
4. ストリームライニングと装備
5. 推進テクニック
6. 状況認識
7. コミュニケーション
8. 呼吸ガスの概要
9. 減圧の概要
10. ダイビング計画
]. 陸上練習の概要:
1. 器材の組み立て、調整と作動確認
2. セーフティ・ドリル
3. 推進テクニック
4. サーフェス・マーカー・ブイ放出手順
5. プレ・ダイブ手順
?. ダイビング・スキルの概要:
1. ダイビング前の準備と計画、ダイビング後の手順を含む、監督なしで自己の責任のもとで安全にダイビングを実行できる技能と習慣を身につけていることを見せる。
2.
補助具なしで300mを立ち止まらずに15分以内で泳ぐ。
3.
マスク、スノーケル、フィンを使用せず、水平に15mを息こらえ潜水する。
4.
全装備で同等の体格のダイバーを25m水面曳航する。
5. 基本的なダイビング器材の機能について説明し、正しく取り扱い、正しく装備することができる。
6. バディおよびチーム・メンバーとともに安全な潜降と浮上の手順を見せる。
7. 全ての水中スキルを中性浮力とトリムを維持し、着底せずに行う。
8. チーム・メンバーの位置を常に認識し、安全に配慮し、バディまたはチーム・メンバーのサインに正しく敏速に対応する。
9. 水中でバディとチーム・メンバーに、正しく効果的にコミュニケーションがとれる。
10. 繊細で濁りやすい環境を想定し、2種類以上の推進テクニックが使えることを見せる。
11.
スプールまたはリールを使って、水中からサーフェス・マーカーを水面に放出する。
12. 水中でマスク無しで18m以上泳ぐ。
13. 中性浮力とトリムを維持できることを見せる。手を使わず安定した姿勢で、仰角30度以内にトリムを維持し、定められた深度に対して1.5m範囲内の深度に留まれること。
14. セカンド・ステージ・レギュレーターを正しく口から外し、咥えなおす。
15. プライマリー・セカンド・ステージとバック・アップ・セカンド・ステージを交換する。
16. マスク・クリアをする。
17. マスク脱着をする。
18. ガス切れダイバーに、敏速に正しい方法で現実的に対応する。
19. ガス切れダイバーに、敏速に正しい方法で現実的に対応しながら、安全な浮上速度を維持して水面に浮上する。
20. 水中で正しく効果的にライトを使う。
21. 水中の意識不明ダイバーを水面に浮上させ、適切なレスキューを行う。
22. コース全体を通して、安全なダイビングを行う能力と姿勢を示す。
]U. 技術確認証の発行手順:
1. コースを満足に修了し、必要な技能を有することが確認されたダイバーには、JAUSの技能確認証が発行される。
2. コースが終了したら、インストラクターは7日以内に「コース終了レポート」をJAUSに提出し、技術確認証の発行手続きを行わなければならない。
3. コースの質を高く維持するために、すべての参加者は「コース評価レポート」をJAUSに提出しなければならない。コース評価レポートが提出されるまで技術確認証は発行されない。
4.
技能確認証はダイバーに恒久的にその技能を有することを保証するものではなく、3年を限度として更新プログラムに参加し、プライマリー・コースで求められた技能を維持していることを証明しなければならない。
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コンセプト
スクーバダイビングで何か活動をしようとするとき、まず第一番に確立しなければならないのは、すべて、自分の責任で自分の安全を維持するという原則です。バディで活動していて、もしものことがあれば、上級者が訴えられる。チームで活動していて、リーダーが、監督が訴えられるというのでは、バディシステムも成立しませんし、指揮系統を確立することもできません。しかし、その実力、知識と技能を確認しないで、やみくもに自己責任と決めつけるのでは、無責任です。残念ながら、各指導団体の初心者講習の修了では、自己責任の確認ができません。中級、上級の人でも、他に依存して潜っている人がたくさんいます。技能、知識を自他ともに確認して、確認したことを証する印が必要です。その証が技能確認証(Verification Card)です。自己責任の確認とともに、どのような約束でダイビング活動をするのか、基準が必要です。その基準をつくり、活動展開の方向と方法をさぐる研究の発表が、このシンポジウムでした。
Vカードの確認研修は、シンポジウムで発表したプライマリーコースプログラムで行います。このコースの特色は、完全にトリムをとり、必要がない限り海底には触れずに、水平な姿勢ですべての活動を行う技術を中心にしていることです。この技術は、アメリカのケーブダイビングから発生したものですが、JAUSが採用した理由は、海の生物、造礁サンゴ、無脊椎動物などに触れない、自然にやさしい潜り方になるからです。21世紀はエコロジーの時代です。自然を破壊しながら調査活動をしたり、スポーツ活動をしたりすることは、ゆるされません。サイエンスダイバーは、海外で諸国の研究者と一緒にダイビング研究活動を行う際、海底に体を着けて生物に衝撃を与えたり、泥を巻き上げて濁したりすると、恥ずかしい思いをすることになります。この技術は、既成のダイビング活動を続けてきたダイバーには、なかなか難しいので、さらに練習が必要です。その練習の過程で、技能は上達します。