第10回JAUSシンポジウム開催報告!

 1月24日(日)の13:00~、第10回JAUSシンポジウムを開催しました。第10回の記念すべきシンポジウムには多くの皆さまにお集まりいただきたいと思っておりましたが、コロナ禍、しかも緊急事態宣言発出中の開催になり、初めての試みとしてZoomウエビナー、YouTubeライブを活用したオンラインによるシンポジウムになりました。13:00~19:40まで6時間を超える長丁場になりましたが、140人の皆さまにご視聴いただきました。

第1部 「ダイビングを手段に調査研究する若手研究者による発表」

 第1部は「ダイビングを手段に調査研究する若手研究者による発表」です。
 ダイビングを手段として独自のテーマで研究をする若き研究者たちが登壇しました。

「浅海域の魚類生態系サービス~サンゴ礁から人工魚礁まで~」

佐藤允昭さん(水産技術研究所 研究員)は、いくつかの指標を用いて、自然の恵み「生態系サービス」を経済価値に置き換えて算定し、大規模白化でダメージを受けた石西礁湖の生態系サービスの変化や、オニヒトデ駆除や海洋保護区に指定するなど海洋管理をすることで白化の緩和効果があるのかを検証するなど、興味深いデータを発表いただきました。

「お台場におけるアオサ類の調査研究の報告」

 三ツ橋知沙さん(日本科学未来館・東京理科大学客員研究員)は、勤務する「日本科学未来館」の目の前あるお台場をフィールドにアオサを調査しています。アオサは世界各地の沿岸で見られるごく普通の海藻ですが、グリーンタイド(緑藻(アオサ属)が異常に増えて沿岸に堆積する現象)などの問題を起こしています。ゲノム解析、PCRを用いた種の同定、遺伝子診断マーカー検定など先端科学技術と潜水調査を活用して、お台場のアオサの調査研究を続ける様子を発表いただきました。

「お台場における外来種・ホンビノスガイの調査研究報告」

 杉原奈央子さん(東京大学大気海洋研究所特任研究員)は、外来種であるホンビノスガイをお台場で調査するプロセスを発表しました。もともと運動や泳ぎが苦手だった杉原さんがホンビノスガイを研究テーマに選んだことで、一念発起しダイビングを始めました。3年間にわたるフィールド調査で明らかになったホンビノスガイの生活史、現在取り組んでいる二枚貝を用い東日本大震災後の沿岸環境の変化の解析なども紹介いただきました。また、今後研究したいこと、日々の生活、思うことなど、研究者のリアルな声もお聞かせいただきました。

「海洋生物から新薬開発 マリンバイオテクノロジーとは」

町田光史さん(早稲田大学先進理工学部 ケミカルバイオロジー研究室研究員)は、海洋生物が産生する天然化合物を用いた研究を行っています。海洋天然化合物を入手するために、自ら潜りカイメンなどを採取していることや、研究室で分離培養するプロセスなどを発表しました。研究室内で行われる培養や解析は一般には難しい内容ですが、多くの図表や写真を用いて分かりやすく解説。潜水調査ではスクーターなどを用い、安全かつ効率的に採集を行っています。研究でも潜水でも最先端の技術をフルに活用して、画期的な新薬開発に結び付く天然化合物を追い求めています。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、中尾洋一さん(早稲田大学教授)をモデレーターに第1部の登壇者たちがダイビングや調査手法について活発な意見交換、議論を行いました。生き生きとした表情で意見を交わす若き研究者たちは、情報交換や協力していけば新たな研究も始められそうと意見が一致。視聴者にとっても登壇者にとっても有意義なディスカッションとなりました。

第2部「JAUS会員による活動報告」

 第2部は「2020年JAUS会員のダイビング報告」です。2020年は年頭からコロナによりダイビング活動も制約される中どんな活動を行ったのか、コロナ禍での活動の様子をお話しいただきました。 

 工藤和由さんは「亜寒帯ラボの活動」を報告しました。亜寒帯ラボは北海道の会員が中心となり、外来種であるウチダザリガニの駆除や、安全潜水講習会などを行っています。コロナ禍で予定していた活動の大半が中止になってしまいましたが、かろうじて行ったウチダザリガニの駆除中に撮影したザリガニの動画や、駆除の完遂するために最後はゆで上げたウチダザリガニを食べることなどを紹介しました。

 「JAUSによる東京湾お台場調査」は山本徹さんが発表しました。JAUSでは「東京港水中生物研究会」を立ち上げ、定例でお台場や京浜島などの潜水調査を行っています。両足に小型の水中スクーターを装着し、調査用の基線(ライン)を設置する動画や出現する生物など、興味深いシーンを紹介しました。この調査にはベントス研究者や第1部に登壇した三ツ橋さんや杉原さんも参加しています。

 JAUSの事務局業務も担う齋藤真由美さんは「コロナ禍の御蔵島ドルフィンスイム&奄美大島ダイビング」として、現地のダイビングサービスや民宿などが行っていた感染対策の様子を紹介。コロナ禍で観光客が少なかったためか、御蔵島ではイルカたちは例年よりもフレンドリーで、ダイバーと至近距離で泳ぐ夢のようなシーンも登場しました。

 小俣雅宏さんは、イングリッシュスピーカーが集うダイビングクラブ「DiveZone Tokyo」の活動を報告しました。2020年は大勢が集まるダイビングツアーやイベントは開催できませんでしたが、2019年に行われたダイビング、バーベキュー、Social(飲み会)などの写真とともに活動内容を報告。同クラブのFacebook登録数は1300名を超え、スタッフの国籍だけで10か国以上、インタナショナルなメンバーが集うダイビングチームです。

 JAUSが人工漁礁調査を行う波左間海中公園は、一昨年の台風により施設に大きな被害を受けました。営業することも難しくなる中、ゲストの有志がクラウドファンディングによる資金集めを行い、300万円を超える資金集めに成功、施設の修繕が行われ、波左間海中公園は再生しました。そのプロセスを「クラウドファンディングで再生した波左間海中公園」として、鶴町雅子さんが発表。御年82歳の現役ガイド・荒川さんからのメッセージも伝えられました。

 市川雅紀さんは、自身が会長を務める「シニアダイバーズクラブ」の活動を報告しました。メンバーは平均年齢71歳、会員数は267名、日本最大級の元気なシニアダイバーが集う団体です。定期的な安全講習や健康管理を行っていること、年頭には総会が開催され、その会場で多くのダイビングツアーが計画されていることなど、会の運営スタイルも紹介されました。

 「85歳の現役ダイバー1年間の潜水記録」を発表したJAUS代表理事の須賀次郎さんは、シンポジウム翌日に86歳になりました。生涯スポーツとしてダイビングをする意義について熱く語り、また、お台場や波左間で潜る様子を動画で紹介。ウエアラブルカメラを取り付けたストックを杖代わり使いエントリーする動画など、興味深いシーンも紹介されました。

 増井武氏は、ホームグラウンドである西表島と小笠原の2020年の様子を紹介しました。西表島へは現地に行く前の2週間は毎日熱を測り体調管理をするなど感染防止対策を行うこと、小笠原へは船内でPCR検査を受け、陰性が確認されなければ入島できないなどの条件が課されていました。離島ゆえの厳格な感染対策を紹介するとともに、両島の美しい海中の動画をテンポよく発表しました。

 海洋コンサルタントの衣川等さんは、日本各地で手掛ける海洋プラスチックの調査報告を行いました。環境省が発表する海洋プラスチックの動向、マイクロプラスチックの問題などを取り上げ、一般市民と行ったプラゴミの回収・調査の様子も報告いただきました。

第3部「コロナ禍の学生ダイバー」 

第3部のテーマは「コロナ禍の学生ダイバー」です。日本水中科学協会は発足以来学生のダイビング活動を支援し、ともに歩んで来ました。コロナ禍で大学の授業はオンラインになり、学内への立ち入りが制限されたりする中で、どう活動しているのか。学習院大学、東京海洋大学、芝浦工業大学、法政大学、東京大学の皆さんに報告いただきました。

 各大学共通するのは、非対面でできるFacebook、インスタグラム、ツイッターなどを駆使して新入生に対して情報を発信し、勧誘を行ったことです。zoomによる説明会などを開催し、すべての大学が新入部員を迎え入れることに成功しています。大学からの行動制限を課せられる中、許される範囲を見定め、感染対策を行いながら夏から秋にかけて新入生に対しオープンウォーター講習を行っています。  とはいえ、密になるため合宿は行えない、海に行く機会も激減しており、新型ウイルスの影響は学生ダイバーにも及んでいます。シンポジウムに参加したOBや関係者から「学生だけで乗り切るのは難しい大きな問題。OBも協力すべき」「コロナの状況も刻々と変わるので、アンテナを延ばすことで、活動ができる方法が見つかるはず」などの有意義なアドバイスもありました。コロナ禍で活動するための工夫の数々を各大学が共有する機会となり、学生ダイバーが孤立せずに活発に安全にダイビングをするための支援につながりました。

学習院大学ダイビング部 田中さん
東京海洋大学潜水部 佐藤さん
芝浦工業大学体育会ダイビング部監督 古山さん
法政大学、関東学生潜水連盟委員長 木村さん
東京大学海洋調査探検部 菊川さん
法政大学アクアダイビングクラブOB 樋口さん

 これまでのシンポジウムでは、終了後に参加者の交流の場を設けていましたが、残念ながら今回はリアルに交流することはできませんでした。いっぽうで遠方の会員からは「オンラインだと参加できるのでありがたい」という声も寄せられました。来年は新型ウイルスの状況がまだ分かりませんが、多くの会員の皆さんにご参加いただけるシンポジウムを目指します。

シンポジウム
第13回JAUSシンポジウムのアーカイブを公開いたしました

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シンポジウム
第13回JAUSダイビング研究活動シンポジウムを2024年3月17日(日)にZOOMウェビナーにて行います

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JAUSワークショップ
2023年1月24日(火)JAUS ZOOMワークショップ「水産高校の仕事とその現状〜戦後最大の教育改革の渦中の中で〜」を開催します

2月5日(日)にJAUSシンポジウムを開催する予定ですが、前夜祭として前回のシンポジウムでお話いただ …