第32回JAUSワークショップ開催報告!

3月26日(金)19:30~、第32回JAUSワークショップを開催しました。JAUSでは昨年からオンラインでワークショップを開催しています。オンラインのいい点の一つが地方の方にも参加していただけることです。今回は国立研究開発法人 水産研究教育機構 主任研究員の名波敦さんに「サンゴ礁に暮らすナミハタのはなし(海洋保護区で魚を守る)」をテーマに、石垣島から発表していただきました。発表のダイジェストを紹介します。

スピーカーは名波敦さん

ナミハタの産卵場保護区とは

ナミハタは最大35㎝に成長する中型のハタで、石垣島では食用魚として人気があります。ナミハタは4~5月に満月から7日目に産卵集群をつくります。産卵集群とは産卵のときだけ産卵場に集まる群れのことで、魚にとっては子孫を残すための大切なイベントです。けれども、特定の場所に特定の時期に集まることで漁師に捕られやすく、石垣島でも海人が手銛や水中銃などでナミハタを捕っています。漁協のデータによると、ナミハタの漁獲量は産卵期以外は1日あたり平均53匹なのが、産卵日には1日1000匹以上もなり、大きな卵塊を持ったメスも捕獲されています。産卵期にナミハタを捕ることは乱獲につながるばかりでなく、大量に同じ種の魚が市場に並ぶと値段も下がり海人ももうかりません。乱獲を防ぐために、沖縄県の水産試験場、漁業者、水産研究教育機構が協力して、産卵場を保護区にすることを発案し、調査を開始しました。

ナミハタってどんな魚?

 ナミハタの産卵場は、石西礁湖のヨナラ水道にあります。流れの強い場所のため安全対策をしながら、あらゆる場所に潜りライン調査を行いました。調査では、ナミハタは普段はサンゴの奥深くに隠れているのが、産卵期になると特定の場所に群れ集まっていること、ダイバーが近づいても逃げない様子が確認されました。これでは漁師に簡単に捕られてしまいます。乱獲の原因はナミハタの密度の高さと大胆な行動によるものでした。

ナミハタの産卵集群

調査を重ね、保護期間を5日から29日に延長

 2010年から設けた産卵場保護区にはどれぐらいのナミハタが集まるのか調べた結果、年によるばらつきはありますが、最も多かった2017年には27000匹が集まっていました。2019年は3500匹程度しか集まりませんでしたが、保護区ができる2010年以前と比較すると違いは歴然と現れ、保護区を設けることでナミハタが守られることが分かりました。

保護区をつくることで、ナミハタの数が増えていることが分かる

 さらに、産卵場に集まるナミハタはどこから来ているのかを調べるため、周辺の165カ所でナミハタを捕獲してタグをつけて放流しました。ナミハタにできるだけダメージを与えないために、作業は全て水中で行います。水中でナミハタを釣って、タグをつけ、大きさを計り素早くリリースします。そして、産卵場に集まったナミハタの中からタグを付けたもの捕獲して、どこから来ているのかを調べた結果、産卵場から8.8㎞離れた場所から来ていることが分かりました。

調査でナミハタの行動が解明され、保護期間を延長した

 次に、ナミハタは産卵場にどのぐらいの期間留まっているのかを調べるため、バイオテレメトリーという、超音波を発する発信機を手術で魚の体内に埋め込んで追跡しました。発信機装着時には麻酔や消毒もして、魚に負担をかけないように細心の注意をしています。発信する信号のパターンを1匹1匹変えることで個体識別が可能になります。31匹に発信機を装着し放流し、信号の受信機を産卵場に15個、日ごろの生息場所に12カ所設置し、ナミハタの居場所を調べました。結果、オスでもっとも長く産卵場にいたものは、産卵日の11日前から2日後まで、メスは5日前から3日後まで産卵場に留まりました。この調査からナミハタはかなり長期間、産卵場にいることを明らかにすることができ、2010年には保護期間を5日にしていたのを、2021年には29日間まで延長しました。

これから石西礁湖やってみたいこと

 今後の研究でやってみたいことは、石西礁湖ではナミハタ以外にもいくつか産卵集群と思われる群れを見つけていますので、明らかにすることです。産卵集群として認められるには、同じ種同士が集まっていること、密度は通常の4倍以上であること、特定の日に産卵していることを示す証拠があることなどが挙げられています。こうした定義を満たすことを実証し、公式記録となる論文を発表する必要があります。時間はかかりそうですが、取り組みたいと思っています。

インフォメーション

名波敦さんの著書
「海洋保護区で魚を守る-サンゴ礁に暮らすナミハタのはなし」
(水産研究・教育機構叢書)
出版:恒星社厚生閣
著:名波敦, 太田格, 秋田雄一, 河端雄毅

海洋生物の保全を考える上で、世界的に注目を集める「海洋保護区」。その目的はさまざまだが、日本でも漁業者の暮らしを支え、食用の魚を守り増やすことを目指し、石垣島近海のサンゴ礁に暮らす魚ナミハタを対象にした海洋保護区が設定されている。潜水調査やバイオロギング等によって得られた最新の研究成果をもとにナミハタの生態を解明していくだけでなく、保全という観点では漁業者と研究者の交流を通じた科学と社会活動の融合など、時に現場の苦労や感動といった裏話も交えながら社会学的な面からも具体的な事例を提供する。(リリースより)

http://www.kouseisha.com/book/b372548.html

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