日本水中科学協会

日本水中科学協会Japanese Academy of Underwater Sciences

6 活動ガイド

6.1 バディシステム


6.1.1 バディシステムで何が出来るか

@協同作業
 水中での活動では、一人ではできない作業、一人よりも二人の方がうまくできて、効率が良くなる作業が多い。例えば、カメラマンとライトマン、カメラマンとモデル、ライン調査などで方形枠を使う場合、採集作業での撮影記録と採集、ラインを持っての捜索、また使用する道具が重い場合、水中で複数の道具を使うとき(スチルカメラとムービー)水中で何かを組み立てる時、水中でケーブルやロープを扱うとき、など、活動内容によって、次々と考えられる。
 カメラマンは、撮影に熱中すると、帰りの道筋を見失ってしまう場合が多い。バディがガイドダイバーであれば、常に帰る方向、道筋を記憶、確認しておくように依頼できる。
協同作業の場合は、バディシステムの維持は容易であるし、また維持されなければ目標を達成できない。
 出来ればなんらかの協同作業の形を作って,バディ維持を意味づければバディ維持がやさしくなる。

A危険の伝達(救助の依頼)
 初心者、訓練生のダイビングでは、特にバディの双方が初心者であった場合、バディに異変が起こっても救助はできない。異変を近くにいるリードダイバー、ガイドダイバー、インストラクターなどに知らせることが重要な役割になる。バディシステムとは、伝達システムである。
 認定団体の講習、あるいはツアーなどで、一人のインストラクターが、4人、6人の訓練生を直接管理することができるのは、なにか異変があったり、バディが見えなくなったら、バディが知らせてくれるからである。

B危急事態の予知
 初心者の場合は、自分が危険な状態に近づいていることを自分で認知できないことがある。バディが上級者であれば、危急事態に陥らない前に察知して、潜水を停止して引き返す、浮上するなどの処置ができる。
 エキスパートの場合でも、作業、活動に集中していると、危急事態の接近が判断できないことがある。ガードするバディが早めに判断して知らせる。帰る道筋の記憶と、帰りに要する時間と空気消費、残圧の確認も、ガードするバディの役割である。役割分担については後述する。

Cエアーの供給
 バディの空気が無くなった時に、オクトパスで、あるいはバディブリージングで供給する。バディが、別のタンク(ベイルアウトタンク)を持ってついて行く場合もある。

D緊急事態の幇助
 単純なミスであるが、タンクバルブを開かないで飛び込んでしまった場合、ウエイトが足りない場合、刺し網や放置された釣り糸などにからまって拘束された場合、バディが居れば、パニックに陥らずに解決できる。沈船、洞窟など、閉鎖された場所に入るときには、外でバディに生命綱を持っていてもらって入る。  なお、タンクバルブを開かずに飛び込んだ場合にも、自分でタンクバルブを開けるように練習しておくことも大事である。

Eレスキュー
 セルフレスキューできる状態、例えば足が吊ったとか、気分が悪い、おなかが痛い、などであれば、曳行などの補助で救助できる。実は、このように、バディが居れば助かったのに、という事故例が圧倒的に多い。
 バディがいれば助かった状況のためにこそ、バディシステムはある。

 身体の強い、若い男でも、突然死する可能性はある。インストラクターでもガイドダイバーでも突然死の可能性がある。水中では誰が意識を失うかわからない。
 呼吸停止、意識不明などの緊急事態では、一人で一人のダイバーをレスキューすることは、よほど身体能力に優れていなければ、難しい。曳行とレスキューは、オールアウトする程に体力が消耗するから、自分も危険になる。
 非力な女子のバディでは、命がけでレスキューして、二重遭難してしまう可能性もある。レスキューが難しい状況、例えば、岸からのエントリーで沖合に潜る場合、流れがある場合、波浪が高い、または高くなる可能性がある場合、などでは、三人、乃至は、五人のフォーメーションを薦める。

6.1.2 バディロスト

 水中では、声も届かない。視界も効かない。接近して、視界の中にバディを入れておき、目を離してはいけない。
 目を離さない、並んで行動することがバディシステムの基本ではあるが、実際にそれを続けることは難しい。なにか、活動目標を持つ時、例えば水中撮影でも、目を離さないなどということは不可能である。

 バディを見失うことをバディロストと呼ぶことにする。バディの離反という表現も使われている。また、バディを再び見つけ出して、ダイビングを続行することをリカバリーということにする。

 バディを見失う、ロストする原因はいくつかある。
@海況・地形によるもの
a)透明度が悪い。
b)流れが早くなった。
c)入り組んだ地形で、陰になって見えなくなる。
A活動に熱中する。
d)水中撮影
e)観察とか、採集とかに、夢中になり、バディを放置してしまう。
B人間的な問題(ヒューマンファクター)
f)一人で、自分の意志で、自由に動きたい。たがいに自分勝手である。
g)注意力が散漫である。
h)バディを維持する実力が無い。

6.1.3 バディシステムの役

1.ガードとトップ
トップは、協同作業では主作業を行い、トレーニングでは先を進む。
ガードは、協同作業ではトップの活動の補佐をする。トレーニングの場合、ガードは追従してトップを守る。
 ガードは、トップの右側、少し後方につける。右利きの場合、右方向に注意が集中し、何かの折には、右手をのばす。ガードはトップから目を離してはいけない。トップは、コースを変更する、動きを変える(速度を上げる。停止するなど)、あるいは停止して作業を行う、撮影するなどの場合には振り返り、アイコンタクトをする。
 実力に差がある場合、どちらをトップにするかが問題になるが、活動では先任(経験年数が多いほう、あるいは資格が上の者)がトップ、トレーニングでは先任をガードにするのが良いだろうが、その都度、リードダイバーが状況を判断して決定する。
 水中撮影で、役割分担が決まっているプロの場合はよいが、対等である スポーツ・エキスペディションでは、二人が共にカメラを持って潜水する場合、よほど息のあったバディでないと、離れてしまう可能性が大きい。
 なお、トップとガードという呼称であるが、トップに相当する者をナビ(ナビゲーター)と呼んだりすることもある。呼び名は自由であるが、ナビでは案内の役割が強い。トップと呼べば、そのダイビングの中心者である意味合いを明確にすることができる。
 なお、ガードという名称を使うのは、水中科学協会が最初である。

 先に述べたバディロストの原因のうちで、、A活動に熱中する Bのヒューマンファクターが原因になる場合については、役割分担、トップとガードが一番効果的である。しかし、もしも、ロストして事故が起こった場合、その責任はガードにあると考えるならば、だれもガードにならなくなってしまいバディシステムは崩壊する。(マンツーマンで有料で指導するインストラクターもしくは、ガイドダイバーがガードになる場合は別としてだが)、ガードであっても、トップであっても、何があっても、バディロストは、それぞれの責任であるという原則があって、バディシステムが成立する。

6.1.4 バディが離れないために

1.ガードとトップ
 ロストの原因がABの場合に有効であることをすでに述べた。

2.バディラインを使う
@海況・地形によるもの
a)透明度が悪い。
b)流れが早くなった。
c)入り組んだ地形で、陰になって見えなくなる。
 ロストの原因が@の海況による場合。
 透視度が4m以下では、通常のバディシステムは成立しない。初心者の場合には、透視度8m以下でも難しい。バディの間を結ぶ、バディラインが有効である。
 スクーバダイビングでは、ロープで身体を縛られることを嫌うが、バディラインは、輪を作って手首に付けておかなくてはすぐに手放してしまう。BC.などに結ぶとラインが絡んでしまいやすい。撮影の場合にはカメラに結び付けておくのも有効である。
 バディラインは、長さ4−5m、太さは、10mm前後が良い。あまり細いと、絡みやすい。黄色など水中で見やすい色が良い。
 しかし、たとえ4mの短いラインでも、水中でラインを使うこと、ラインで結ばれてのダイビングはラインが身体に絡んでしまうこともあり、易しくはない。る。練習が必要である。
 底うねりがあって体が大きく揺られるような場合には、バディラインがあるために、かえって作業が出来なくなってしまうこともある。次のラインを引く方法の方がやりやすい。

3.ラインを引く
 調査の場合には、調査ラインを引くことが多い。ライントランセクト調査は、調査潜水の基本である。
 長い調査ラインの場合には、沈みロープをつかう。短いラインとしては、50m程度の長さの耐水巻き尺が便利である。調査でなくとも、ラインはバディロストを防ぐ役割を果たす。バディロストが起きにくいし、ライン上で留まっていれば容易に見つけ出せる。
 注意するのは、ダイビングスポットに設置されているガイドラインである。縦横に引いてあり、交差しているところで迷いやすい。
 交叉してガイドラインを引くならば、色を変えるとか、太さを変える(主ラインと枝分かれラインの区別は太さを変える)きめ細かさが望まれる。

4.点滅するライトを使う。
 点滅するライトを肩に付けると、位置がわかりやすくなる。

6.1.5 自由度と安全度

 バディの役割分担をトップとガードに定めたり、バディラインを使用するなど、いずれも効果はあるが、そのためにスクーバの自由度が大きく妨げられる。
 自由が妨げられることをスクーバダイバーは、何よりも嫌う。自由度をとるのか、より安全な方策をとるのかの選択になる。
 安全よりも、活動を完成させるために、自由度を選択するのは、個人の判断と責任であるが、基準としては、安全度の高い方策を選ぶ。
 プロのリサーチダイビングでは、バディがぴったり並んでいたのでは、実際の活動ができない場面が多い。リサーチラインを引く調査方法は、リサーチダイビングの定番であるから、極力この方法を使う。
 長いリサーチラインの他、50−100mの巻き尺を補助的なラインに使うこともあり、これは、バディロストを防ぐためには有効な手段である。

 トップとガードを決めても、無視する人がいる。
 バディラインが有効であるが、それも嫌えば、どうすることもできない。バディを組ませれば、相手を危険にさらすことになる。バディが探し回っているのに、本人は、一人で帰ってきてしまっているような事態は珍しくない。探し回ったバディはパニックになるだろう。
 ソロ・ダイビングをする他はない。
 ※ソロ・ダイビングについては、別に検討するが、ソロでなければ潜れない人もいることを考えずに、バディシステムを厳則にすることにも問題がある。

6.1.6 バディリカバリー

@バディシステムの役割を守ろうとする意志はあっても、どうしても離れてしまう状況もある。
A役割を決めても、声も届かない、見通しもきかない水中では、離れてしまうことはある。特にカメラを持っての撮影では、離れやすい。
B流れに押し流されて、離れてしまう。地形の影でブラインドになり、見失ってしまうこともある。もちろん、透視度が悪ければ、離れてしまう可能性が大きくなる。10m前後の透視度は、バディラインを使うほどでもないが、見通しも良くない。離れる可能性が大きい。

離れてしまった場合の対応を明確にしておき、ダイビング直前のブリーフィングで確認しておく。

 昔の対応策は、まず、少し上方に上がって周囲を見回す。気泡が見えれば、その方向に接近する。透視度が20m近くあれば、現在でも有効な方法である。
 気泡が見当たらなければ、そのまま水面に浮上する。バディも浮上するように打ち合わせておけば、水面では簡単に一緒になることができ、再び一緒に潜降して、活動を続けることができると、昔は説明した。今でも、水深が10m以下の場所では、有効な対応である。しかし、10mを越えると、現在のダイブコンピューターを使うダイビングでは、5m辺で、3分間停止のセフティストップが指示される。減圧症の予防を第一に考えるならば、バディにはぐれてもそのまま浮上するわけには行かない。

 現在では、以下のような対処方法を潜水前のブリーフィングで充分に説明し、確認をとる。
 a) 探す方と探される方と役割分担を決めておく。例えば、トップがバディから離れたと思ったら、その場で止まり、ガードが探してくれるのを待つ。あるいは,その逆にガードが離れてしまったら、トップが戻るとか決めておく。探される方は、その場に止まり、探す方が後戻りすれば、探しあてる確率が高い。水深が20m以下であれば、例えば、5分間待つとか、残圧が70になるまで待つとか決めておく。残圧が少なければ、例えば1分と定めておき、時間が経過したら出発基点にもどるか、もどる道筋がわからなければそのまま、減圧停止をして浮上する。
 これらは、その都度の取り決めであり、状況に応じて定めて、潜水計画書でメンバー全員が承認しておく。

b) 流れが速い場合、水面が風波が高い場合には、浮上出来ないので、はぐれて2分経過したら、出発地点にもどる。ガードも、2分探して見つからなければ、出発地点に戻るように決めておけば、戻る途中で一緒になれる可能性が大きい。波浪、流れの強い場所で、透視度が20m以下であったとすれば、自力で戻れない可能性がある訓練生はダイビングを禁止する。

c) 水面の風波が高い場合には、透視度が高くても、ラインを引く。
 50〜80mの巻き尺ラインを任意に、あるいはランドマークになる地形があれば、ランドマークを目標にして、打ち合わせた通りに引く。ラインにそって移動し活動すれば、バディロストも防げるし、ロストしても容易に見つけ出すことが出来る。
 訓練生が入るフォーメーションでは、よほど地形がわかっている場所でない限り。常時ラインを引くことを薦める。
 透視度が8m以下であれば、やはりラインを引くことを薦める。
 巻き尺ラインの他にも、様々なリールが発売されているので使いやすいものを用意する。価格と使いやすさでは巻き尺ラインが良いが、大きいのが難点である。

 d) 流れに流されて見失う場合の対応
 流れのある場合での、岸からのエントリーでは、遡って探そうとせず、流される終末点で合流、浮上するように決めておく。訓練生は潜水禁止。
 流れが速い場合、原則としては、ボートでドリフトダイビングを行う。ドリフトの場合には、絶対に、前もって打ち合わせたコースから外れてはいけない。カメラを持った場合、良い被写体を追ってコースを外れたりすると、流される結果になりやすい。

e) 地形については、熟知している場所をポイントに選ぶ。はぐれやすい地形で、熟知していないならば、ラインを引くなどして、万全の対策を立てる。  地形について、事前のブリーフィングで、図などを参考にして、充分に打ち合わせる。
自分が熟知していない場合には、ガイドダイバーを雇うことになるが、ガイドダイバーとはぐれてしまう可能性もあるので、全面的に頼ることはできない。なお,引率するコーチ、リードダイバーが地形を熟知していても、メンバーが、認定ダイバー、訓練生のランクでは、地形を読めなくても当然であるから透視度が悪い場合には、ラインを引く。

6.2 フォーメーション


6.2.1 フォーメーション

 フォーメーションとは編隊、スポーツではチームプレーの動きの約束である。
 バディシステムもフォーメーションの一つであるが、ここでは、主として3人-5人が一緒にエントリーし、協力しあって活動する約束ごとをフォーメーションとぶことにする。

 レスキューを行う事態を想定すると、一人が一人を助けるバディレスキューよりも、二人が一人を助ける三人のフォーメーションのほうが、あるいは四人で一人を助ける五人のフォーメーションの方が安全度は高い。ただしフォーメーションの場合もバディが基本単位であり、ロストの対策はバディシステムと同じである。
 ただし、3人のフォーメーションで初心者の一人が救急事態になったとする。その一人を助けるために、一人を放置すると、放置された一人が深刻な事故になる。古典的な事故のパターンである。必ず全員一緒に浮上しなければならない。4人のフォーメーションであれば、場合によっては二つのバディに散開し再び集まるような動きも約束することができる。

 スクーバダイビングは、それぞれが自分の安全に責任を持っことを前提とした上でのチームプレーである。
 フォーメーションの維持、離れた場合の対応策は、バディシステムと同様である。

 3人のフォーメーションは、バディとバディをガードし、行動を指揮するリードのフォーメーションである。
 4人のフォーメーションは、二つのバディに分かれてしまいがちだが、どちらかのバディにリードがいれば、その指揮に従う。離れてしまってもやむを得ないが、バディだけはしっかりと維持する。
 5人のフォーメーションは、二つのバディと一人のリードである。ダイビングの途中で、二人と三人に別れる想定をする場合もあり得るが、原則として、5人がまとまって行動する。
 6人以上は、1人のリードでは維持できにくい。例えば4人のフォーメーションと一つのバディという具合に、二つのフォーメーションに分ける。

 訓練生がフォーメーションに加わる場合、訓練生の数が、リードダイバー+コーチの人数より多くならないようにする。例えば5人のフォーメーションで、訓練生だけのバディ二組に、一人のリードダイバー、もしくはコーチでは水深10m以上では危ない。つまり4:1では危険である。
 レジャーダイビングでは、Cカードを取ったばかり、訓練生に等しいダイバー6人に一人、8人に一人のインストラクターの引率までが許されているが、危険である。
 既に述べたように、危急の事態で、一人までは救助できるが、その時に海底に残した初心者が見えなくなることがある。事故の古典的パターンである。絶対に、海底に初心者を残してはいけない。

 フォーメーションシステムでも、役割分担は重要である。例えば
 ガードとトップのバディにリードが一人
 ガードとトップのバディ二組にリードが一人
 訓練生が加わる場合には、ガードは認定ダイバーであるようにしたい。
 全員が認定ダイバーであれば、リードは、リードダイバーの資格が無くても良い。

 リードダイバーは、日本の学生クラブでは、ナビ、などとも呼ばれている。学生クラブでは、全体の先頭を行くガイドの役割であるが、ここでのリードは、全体の安全を図る役割を優先する。ガイドは別に置くことが望ましい。
 フォーメーションの動き、またフォーメーションが崩れてしまった場合のスクランブルの処理と動きについて、定めておき計画書に記しておく。

6.2.2 ミーティングポイント

 フォーメーションでは、例えば5人のフォーメーションが三人と二人に分かれてしまう可能性が高い。バディシステムが維持されている限り、そのままダイビングを続行する。 この状態を示す、適切な用語がないので、アメリカンフットボールの用語を借りて、スクランブルと呼ぶ。展開とか、散開とかも表現として考えられる。
 離れてしまっても、前もって離れてからの行動を予測していて、行動を続行している状態である。
 フォーメーションが崩れても、バディは離れてはいけない。バディが離れてしまえば、それはスクランブルではなくロストである。
バディロストについても、あらかじめ計画書にその後の行動を記して、打ち合わせておく。

 別れたバディ、崩れたフォーメーションが、もとに戻る待ち合わせ場所をミーティングポイントと呼ぶ。例えば、離れたら、初心者はその場でとまり、リーダーが戻ってきて探す、とか、はぐれたらそのまま、ダイビングを続けて、岸近くのどこかで会うとか、ボートダイビングであれば、ブイを上げてある浮上地点に戻るとか、ラインを引いてあれば、ラインのどの地点で待つとか決めておく。
 目立った地形があれば、ランドマークとして、ミーティングポイントにすることが出来る。ただし、大きな岩などは、陰に回ると見つけられないので、待つとしたらその頂上になる。

6.2.3 ブリーフィング

 ブリーフィングとは状況と計画の説明であり、6−5でさらに述べる。
 潜水に先立って、前夜、もしくは、出発前、現地到着直後などに全員での打ち合わせを行い、ダイビングの目標、役割分担、緊急の場合の危機管理などを話し合い、合意しておく。 計画を文書化した計画書AとBを用意するが、計画書Bに、確認のサインをしておく。計画書Bは、免責合意書と同等のものと考える。
 さらに、ダイビング直前にバディシステム、フォーメーションの役割分担の再確認、打ち合わせ事項の変更がないか、ダイビングのコースの概略、ロスト・リカバリー、スクランブルの処理、ミーティングポイント、もしもの場合の緊急捜索コース、救助措置などを簡略に指示する。
 ブリーフィングは重要である。もしもブリーフィングが行われなくて事故が起これば、それはリードダイバー、コーチの責任であるとされても仕方がない。

6.2.4 チームワーク

 計画書は行動の動きの約束であるが、水中環境では、遠くを見る視界が効かないことも多く、ダイバーの声も通常ではとどかない。 水中環境は常時変動し変化する。約束通りには出来ない事態が起こりえる。バディは、単純な約束ごとではない。人間どうしの思いやり、危険を伴わない範囲での自己犠牲の気持ちがなければ、つながりは保ち得ない。たとえば、ツアーに行き、相手のダイビング経歴も、人柄も性格もわからないままに、バディと決められて維持出来るものではない。もしも、一人でツアーに行くのならば、行き先のガイドと親しいとか、気心の知れた人が現地に居ることが必須であろう。また受け入れる側としても、本当にそのダイバーの実力が確認できる証、認定証を確認したい。
 まだ、活動認定が出来ずにトレーニング中の訓練生であるならば、信頼できるリーダー、コーチ、気心の知れたバディ、あるいはユニットで、計画書にしたがって行動しなければ、安心できない。

6.3 潜水計画書作成要綱


6.3.1 確認作業

1) 潜水作業の妨げになりそうな事項の調整
  潜水のために許可申請が必要な海域もある。
2) 参加メンバーの認定の種類と段階の確認:ユニットのメンバーが、行おうとするダイビングに適合した資格を持っていることを確認する。
3)健康確認チェックシートの提出。緊急時の連絡先確認(氏名 電話番号、連絡先との続柄)
4) 安全のための器材、緊急用の器材(ロープ、酸素呼吸器など)が、ダイブサイト、潜水場所で使用できる状態であるか確認する。

6.3.2  潜水計画書 A

次の項目を文書化したものが潜水計画書Aである。
1)潜水の目的と今回の達成目標
2)目標とする作業の手順、器材、チャーターするボート
3)潜水する場所の海況、予想される危険
4)潜水回数、予想される水深と潜水時間、減圧と繰り返し潜水
5)緊急時の捜索、救助、連絡手段、病院への搬送
6) 健康チェックシートと免責同意

 計画書:Aを使用して、潜水の前夜、もしくは潜水前の朝、ゆったりした場所で、30分ほど時間をとって打ち合わせを行い、確認、承認のサインをもらっておく。文書化とその確認が常に必須である。

 なお、安全作業計画書の作成、提出を求められている場合には、潜水計画書Aと平行して確認する。

6.3.3 潜水計画書B チェックシート


 ダイブサイトでは、計画書Bを使用して潜水直前のブリーフィングを行い、これも確認・承認のサインをもらっておく。
1)潜水の目標
2)ダイビングの安全に影響のあるような周辺環境について。
3)バディの役割分担確認とフォーメーションの確認
4)予定される動きのコース、予想される潜水所要時間、潜水深度、について図で説明する。減圧停止(セフティストップ)の時間と説明、
5)予想される緊急事態とその場合におけるダイビング計画の変更
6)状況が安全でなくなった場合のダイビングの中断について。
※誰か一人がトラブルが起こったら、必ず全員がダイビングを中止して、出発点、もしくは、予定していたエキジットポイントに戻る。
7)身体の不調があれば、報告させる。リードダイバーは条件を考慮して、ダイビングを中止して休養させる。
8)健康チェックと免責同意を含めて、チェックシートに全員が確認のサインをする。

 潜水計画書Aは、そのプロジェクト全体の説明であり、潜水計画書Bは、個別の潜水の計画書である。計画が日常的なものである場合には、AとBを合体させた計画書であっても良い。
 ブリーフィングも直前のブリーフィングは必須であるが、通常のダイビングであれば、前夜の打ち合わせは省略しても良い。

6.3.4 ログブックとの結合

ログは個人として必ず着けさせる。いまでもレクリエーション・ダイビングでは、「ログ付け」などと言って時間をとっているが、終わってからの反省よりも、始めるときの計画が大事である。

計画書Bをそのまま流用して、
1)日時・場所
2)水面上の様相(天候、風向き、波浪、流れ)
3)水中の様相(透視度、水温、流れ)
4)最大水深、潜水時間、サーフェスインターバル
5)使った器材 ダイブコンピューター
6)水中の状況を200字以内で
7)ニヤミス、反省点、もしも本当にトラブルがあれば,その詳細を書く。

 計画書Bがそのままログシートになるようなフォーマットを作り、ブリーフィング
時に全員に配り、そのままログにすることもできる。浮上したときにダイビングコンピューターの数字と感想を計画書Bに書き込めば良い。

 さらにこのログの記載をそのまま,エクセルなどの表計算ソフトに写しておく。  これこそが本当のログであり、年間の潜水時間数の積算もできるし、ユニット、グループ全体の記録を残しておくためにも便利である。紙に書いたログでは、大量の長い年月のログを蓄えていて、一覧することなど出来ない。

6.3.5 免責同意書

 計画書Bは、免責同意書の役割も兼ねている。
 すでにグループ加入時、活動参加に際して,免責同意書にサインしてもらっている。これは、スクーバダイビングという活動全体についての認識を確認し、免責に同意するものであるが、ここでは、この日、この時のダイビング活動と、その安全確保手段と、存在する危険を認識し、安全確保手段、危急の場合の処置を互いに確認し、それでもなお、救急出来なかった場合の免責を確認するものである。
 計画書Bのサイン欄に、日時と時間を記入し、リードダイバー、参加メンバーがサインする。

6.5 ブリーフィング


6.5.1 目的目標説明

 ダイビングが行われる前夜、もしくは当日の朝、仕様書、企画書、安全作業計画書
計画書A、計画書Bをそろえて、30分程度の説明を行う。 仕様書、企画書、安全作業計画書、が存在しない場合には計画書A・Bだけで説明する。
 なおスポーツ・エキスペディションで日常的に行われるツアーダイビングなどでは、この項の説明は任意である。

6.5.2 エントリー直前のブリーフィング

ダイビングサイトで、エントリーする海を見ながら、海況を確認し、5分−10分程度最終確認を行う。
 計画書Bをリーダーが読み上げて確認し、サインしてもらう。

6.5.3 エキジット後のブリーフィング

エキジットしてから,あまり時間を置かず、寒くないならばダイビングサイトで、計画書Bを見ながら、計画と実施との差異、水中の状況の聞き取りを行い、計画書Bをログとして記入する。
 調査潜水など活動内容が特別のものであり、詳細な報告が必要な者であれば、聞き取りを行ってその日のうちにレポートを作る。
宿に戻ったら、コンピューターの表計算ソフトに計画書Bのデータを移しておく。  状況によっては、エキジット直後のブリーフィングでは、書き込みを行わずに、コンピューターの移行の際に反省と次の潜水の打ち合わせを行う。

6.6 海況の難易度判断


6.6.1 水深

 深度資格を定める理由は、深くなればなるほど危険は大きくなるからである。減圧症の危険、エア切れで息こらえで浮上出来る限界、40m以上は窒素酔いの危険があるが、水深30mでも、影響が出る。深度資格で定めたように、水深10mまで、10−20m、20−30m、30−40mと次第に危険度が上がる。40m以上の潜水は、特別な潜水と考える。
 40m−100mに潜る中深度潜水には、テクニカルダイビングとシステムダイビングがある。簡単に区別すれば、テクニカルダイビングは、水面上からサポートを受けないスクーバで潜水する、システムダイビングは、ホースで空気を送る送気式が主体であり、生命維持のためのサポートを船上から行う。
 どちらかと言えば、テクニカルダイビングはレクリエーション的であり、システム潜水にはレクリエーションの要素は全くない。
 テクニカルダイビングをプロフェッショナル用途に使用できるのは、水中撮影、調査潜水の分野であり、テクニカルダイビングのプロ化も水中科学協会の目標の一つである。
 なお、レクリエーションダイビングでは20mから先を大深度などと言うが、作業潜水での大深度は、水深120m以上の深さを言う。40mまでは浅深度であり、スクーバでの一般的な活動は、浅深度、40mまでの深さとする。
 許される40mまでのダイビングで、水深10mまでを低い危険、10−30mを中程度の危険、30−40mを高度な危険とする。ただし、浅い水深でも高い波やうねりが押し寄せている状況では、深い潜水よりも、危険度が高くなる。物理的に危険度が最も高いのは、波が折り返されるサーフゾーンである。
 なお、トレーニング基準との連携で、スキンダイビングで水平に潜水できる距離だけの深さに潜水できるという物差しもある。かつては、垂直に潜れる深さだけ潜れるとしていた考え方もあったが、垂直に水深40mまで潜れるダイバーは、日本では、数名に限られることから、そして、垂直に潜るトレーニングはて危険が大きいので、水平距離に置き換えた。高い危険度であるが、スキンダイビングで、水平に40m潜れるダイバーは、垂直に40mまでスクーバで潜れるとする。

 減圧症に関連する減圧表、空気塞栓、酸素中毒などについては、各指導団体のマニュアル、潜水士テキスト、などがあり、DANの機関誌にも、新しい情報が掲載されているので、ここでは割愛する。

6.6.2 水温

 水温が低いほど低体温症の危険が増大する。 特別の寒がり(低温に対する耐性がない人)は別として、水温22度以上は、3mmのウエットスーツで、水温18度〜21度は、通常の5mmのウエットスーツで、低い危険で潜水できる。 15度〜18度は、ウエットスーツを着て、中程度の危険、15度以下はウエットスーツでは、高い危険である。
 ドライスーツは、ドライスーツそのものが、慣れないと中程度の危険度を持つ。低温度に強く、夏でもドライスーツの着用をする北国のダイバーを除いて、水温10度から18度は、ドライスーツを着て中程度の危険である。いずれにしても、寒さを感じたら,直ちに潜水を中止して戻る。
 一般のダイバーでは、水温10度以下は、ドライスーツでも高い危険度とする。

 北国では、真夏をのぞいては周年10度以下になり、常にドライスーツを着ているから、北国のダイバーにとっては、10度以下でも高い危険度とは言えない。
 また、年齢が高くなれば、耐寒度が低くなり、総体的に水温に関しての危険度が高くなる。

6.6.3 濁り

 濁りは、透視度という言い表し方をする。濁度という物差しもあるが、測定器具を使わなければ測定できないので、人間の眼、ダイバーの見た目を尺度にする透視度がダイバーの間では普通に使われる。人間の眼がインターフェースであるから、個人によって大きな差がある。また、尺度も様々な説、考え方がある。
@ダイバーの姿が誰なのかがわかる距離
A40センチ大の魚の種類がわかる距離
B写真がシャープに撮れるのは、透視度の三分の一といわれるので、写真の撮れる距離の4倍が透視度になる。

 ダイバーが誰なのかわかる距離が普通に使いやすい尺度である。
 すでに述べたように、透視度4m以下ではバディラインのないバディシステムは成立しない。透視度4mで、10mよりも深く潜れば、ライトを点けない限り肉眼ではものが見分けられなくなる。
 透視度は、層によって変わる。水面では濁っていても、潜って海底では横に透視度が高くなることもあるし、逆に水面で透明度が高くても、中層濁り、低層濁りがある場合もある。
 透視度10m以上が低い危険度であり、5−10mが中程度の危険、5m以下では高い危険度とする。

 総体的に見て、水深、水温、透視度は、一つの高い危険であれば、認定を受けたダイバー以上のバディならば潜水可能、訓練生は充分な準備をして、高い危険度を体験する訓練以外は潜水禁止。二つ以上の高い危険度が重なるならば、リードダイバー以上のバディでなければ潜水禁止。三つの高い危険が重なるならば、特別の目標があり、そのための準備をした後でなければ、潜水禁止である。

6.6.4 波浪、うねり、流れ

 波浪とうねりは、エントリ−・エキジットの危険の元になる。
 波高1.5m以上は、岸からのエントリーでは高い危険度である。うねりは、沖に出れば水の上下動でしかないが、岸に打ち寄せる時には、大きな破壊力がある。岸の地形が岩礁で、うねりが当たっていれば、当たっていない位置を探してエントリー、エキジットをする。
 砂浜からのエキジットで、なんとか這い上がれるようなうねりであれば、高い危険度であるが潜水可能である。
 ボートダイビングでは、波高1.5mが限界であり、1m以上は高い危険である。
 なお、ここで言う波高は、天気予報、波浪予報の数値とは違う。予報で、波高4mと言ってもそれは、沖合のことであり、岸辺の地形で陰になっているところでは、1m以下になっている場所もある。しかしながら、予報の2.5mは、岸近くでは、1.5m以上になっていることが多く、限界に近い。
 波浪の危険は物理的な傷害を与えるから、他の危険要素がどうあろうとも、ダイビングは出来ない。

 流れについては、流されてゆく先に船を待たせておくドリフトダイビングでない限り、0.5ノット以上の流れでは、原則として禁止である。流されない、あるいは流されてもボートで追えるような準備をして、ダイビング可能になる。
 沖出しの潮、リップカレントについては、流れの出来る場所と時間、流れの巾、流れの強さを読まなければならない。潮を読むというが、地元のベテランガイドダイバー、あるいは海士・海女、でなければ、正確に読める人はいないと考えた方がよい。
 リップカレントのある場所で、潮が読み切れなければ、岸からのエントリーは禁止する。

6.6.5 ビーチエントリーの難易度
(岸からのエントリー、エキジット)

 ダイビングでもっとも負荷がかかり、呼吸がはずみ、脈拍が早くなるのはエントリーとエキジットの時である。どちらかと言えば、エキジットの方が負荷は大きい。潜水中は、スクーバ装備の重さを感じていないが、岸で立ち上がると、一気に重さを感じて転倒したりする。
 身軽なスキンダイビングでは、楽にエントリー、エキジットができるが、重いスクーバ全装備にカメラを持ったりすれば、女性、高齢者には辛い労作になり、バディの幇助が必要になる。どのような形で幇助するか、決めておく。それぞれの体力、体調、地形、波浪、うねりなどによってエキジットが可能であるかどうか、どのような幇助が必要か、考慮して決めるが、常に誰かが幇助できる態勢をとっておく。
 緊急事態では、幇助がなければ、日本人の普通の体力、体型では、事故者を一人で引き揚げることは困難である。岸からのエントリーでは、岸に幇助ができる者をのこしておくことが望まれる。人数が足りない場合には、若くて体力のある者を先にエキジットさせ、スクーバ装備を外して、身軽になって幇助することを予定する。
 ダイビング施設の多くでは、コンクリートの斜面に手すりをつけて、エントリー、エキジットが楽に出来るように作ってある。エントリー、エキジットがやりやすいかやりにくいかは、施設選択の大きなポイントになる。
 探検的なエキスペディション、サイエンス・ダイバーの潜水などでは、施設がない場所でのエントリー、エキジットが日常になる。
重い器材を背負っての転倒、緊急事態での引き揚げなどを考慮して、エントリー・エキジットの地点をピンポイントで選択しなければならない。
 ポイントは、岸の地形、打ち寄せる波、うねりなどを考慮して決める。沖出しの潮の流れが予想出来るときには、流された先のエキジットポイントも想定しておかなくてはならない。
  低い危険  :ダイビング施設と同様の負荷でエキジットができる。
  中程度の危険:普通の負荷でエキジットが出来る。
  高い危険  :幇助がなければエキジットできない。

6.7 ボートダイビング


6.7.1 ボートダイビング注意事項

 岸からのエントリーができる、ボートを使わなくても潜水できることが、スクーバダイビングの経済的メリットであるが、ダイビングは、本来、ボートからのエントリー、エキジットが基本であり、体力的には楽である。また、水面まで浮上すれば、ボートからの救助が期待できる。それだけに安全性が高い。
 ここで、ボートと呼んでいるが、日本では、漁船、または漁船型の船を使用して行われることが多いので、漁船もボートと呼ぶことにする。船頭、すなわちボートオペレーターである。

@岸壁での船の乗り降りの時、ボートと岸壁の間に手、足を挟まないように、船が舫いを取り、防舷材を入れ、完全に静止するまでは、乗り降りしない。
A器材が散乱したり、他のグループと取り違いないような整頓する。メッシュバッグに入れて整頓する。
B船上での行動と位置は、後部が一番楽で、しぶきもかからない。舳先に座っていると、波や潮で放り出されて重傷を負う例が少なくない。波も無く静穏な海面を、ダイビングボートはたいてい高速だから、疾走する。舳先に居るのは快適であるが、突然、潮目にぶつかると、船がしゃくられる。後部に跳ねとばされて重傷を負う例が少なくない。
C船酔いの薬は、鎮静剤、精神安定剤であるから、動作が鈍くなり、眠くなる人もいるが、船酔いになれば眠いよりも辛い。一回吐いてしまえば、楽になるという人もいるが、吐くまでが苦しい。吐くものが無くなってもまだ気分が悪い場合もある。
 船酔いをしない医者が薬を飲まない方が良いなどと、書いているが、飲んだ方が良い。船酔いの薬を飲むことは恥ではない。その船の揺れになれるまでは、船員、漁業者でも薬を飲む。

6.7.2  使用するボート

@ダイビング専門の船
A船外機付き小型漁船
B5トン未満の普通の漁船
C大型船舶
Dゴムボート

(1) ダイビング専門の船
 如何にすれば、エントリー・エキジットにストレスがかからないかを考慮、工夫して作られている。ストレスが大きければ、営業にならない。また、インストラクター、ガイドダイバーの幇助もいたれりつくせりにしないと、高齢のダイバーはお客になってくれない。
(2)小さいボート、船外機付きの漁船
 @オペレーターとバディ二人、三人乗ったら満員になり、身体の入れ替えも注意がひつようなような小さな漁船、
 A10人ぐらいは乗れて、4人のダイバーが楽に潜水できる大型の船外機付きの漁船もしくはボート
 船外機は必ず2台付けておく。
 ダイビングボートとしてはこれが理想である。大きな船のクルーズでは、このタイプのダイビングボートに乗り換えてダイビングを行う。
 この大きさの船で耐えられないような、波高2m以上の海には出て行くべきではない。
 船外機付きの漁船は、梯子が無くてもエントリー・エキジットが出来る。
 小型の船外機付きの漁船、およびゴムボートでは、波が少しあれば、二人のダイバーが立ち上がると危ない。膝立ちですべてをやらなければならない。いったん立ち上がって、船縁に腰を下ろしてから、後ろにひっくり返るバックエントリーは適切ではない。サイドロール、あるいは頭から入って行くロールを練習しておく。
 船に上がる時も、はしごは使わずに、よじ登る訓練が必要である。タンクとウエイトを外して別に引き揚げてもらい、フィンで水を蹴ってその反動で上がる。手が船縁にかかるならば上がれる。船の上から手をさしのべてもらって引き上げてもらいながら這い上がるならば、1m程度の高さの船縁からでもあがれる。梯子で上がるよりも楽である。
 少し要領が必要なので、練習しておく。

(3)五トン未満の普通の漁船
 ヘルメットダイバーが使うような、船縁に沿って横に並ぶよう梯子であれば使いやすいが、傾斜が無くて、垂直、あるいはオーバーハングしたような梯子であれば、梯子は使わないで、機材を引き上げてもらってから、ロープにつかまって引き上げてもらった方が楽である。

(4)大型船舶
 100トン以上の大型船舶から、ダイバーが直接エントリーし・エキジットすることは、特別の装備がない限りまずやらない。大型船舶からゴムボートなどを降ろし、そのゴムボートから潜水する。
 なぜ、ゴムボートが良いかというと、波でボートが母船に打ち当たるような場合、ダイバーが挟み込まれたりすると大きな怪我をする。ゴムボートであれば、挟まれてもダメージは少ない。
 小さなゴムボートの上では、立ち上がることは難しく、エントリーでは、水に入ってから、スクーバを着け、エキジットは、スクーバを引き上げてもらって、ダイバーがよじのぼるか、引き揚げてもらう。

6.7.3 アンカーと潜降索

 アンカーと潜降索(さがり綱)を共通に、アンカーロープを伝って潜るダイバーが多いけれど、アンカーと潜降索は別のものである。アンカーは船を留めるもの、潜降索は、それに伝ってダイバーが潜降し、浮上するものである。
 船を留めるアンカーは、相当の長さ、水深の2−4倍の長さのロープが付けられている。アンカーロープを伝わって潜ると、長い距離を泳がなければならない。また、アンカーは強い流れ、あるいは風で船が流されると、引きずられて動いてしまう。さらに、多人数で潜った時、先に浮上したダイバーが流されたりすると、アンカーを上げて船がそれを追えば、水中のダイバーが減圧停止が出来なくなるし、取り残されてしまう。

 そして、毎日停泊する港の中ならば、アンカーを入れることは容易であるが、外海で、しかも水深が20m以上あると、アンカーをダイビングの目標物の直上に落とすことは、とても難しい。適切な錘(5キロ程度)を付けたロープに錘に見合う浮子をつけた潜降索ならば、たとえ50mを越える水深でも、目標物の上に落とすことが出来る。
 潜降索の長さは、水深の10%−20%増しにする。
 目標物、目標地点に潜降索を入れるためには、魚探で海底の目標物の影をさぐり、ここだと思うところに、仮のブイを入れる。仮のブイの周辺をさらに魚探で捜索して、位置を確認して、本格的な潜降索を落とす。仮のブイは、1本だけではなく、2本、3本と入れる場合もあり、位置が違えばすぐに引き揚げるので,2キロ程度の軽い錘を使う。潜降索の錘は、ダイバーが数人つかまっても動くことがないような重さが必要である。うまく潜降索設置ができれば、ダイバーは、潜降索を伝わって、海底の目的物の直上に降下することができる。
 ダイバーを潜らせたあと、ボートは、アンカーを入れることなく、潜降索から50m程度離れた位置で流して待機する。
 ダイバーが潜降索に沿って浮上し、ブイの近くに浮上したならば、ボートを近づけて収容する。

 ボートが小さく、アンカーが大きく、ロープを短くしても船が流されないような、重さであれば、アンカーロープと潜降索を兼用させることもできるが、ボートに重いアンカーを引き上げることができるウインチが必要である。それでも、アンカーを潜降索に使うと、もしも、ダイバーが流されたような場合、アンカーを引き上げて収容に向かはなくてはならないから、ダイバーは小人数に限定される。
 ダイビング施設などでは、ダイビング地点にあらかじめ、固定的なブイが打ってあり、ボートはそれにつかまって留まるようになっている場合が多い。この場合は、この固定ブイを潜降索として使う。

6.7.4 減圧停止

 10年ほど前までは(2000年より前)潜水時間が無減圧で浮上できる限界内であれば、そのまま、毎分10m以内の浮上率で、水面まで浮上するのが常であった。その前は、浮上速度は毎分18mだった。
 現在では、水深10m以上に潜水した場合には、潜水時間の如何を問わず、5mのあたりで3分間のセフティストップをすることが、薦められ、それが普通になった。もちろん、減圧停止が必要であれば、それ以上に長い停止をしなければならない。つまり、常に、ほとんどの潜水で減圧停止をするようになった。

 ダイビング施設のポイントでは、減圧停止用の止まり木のようなバーを減圧停止点に吊してある場合も少なくない。潜水士の規則、(高気圧障害防止規則)によれば、潜降索には、3m毎に、印を付けることになっている。
 ボートダイビングの場合は、潜降索につかまって、岸からのエントリーの場合には、5mほどの水深で遊んで、減圧停止をすることが出来る。減圧停止が退屈であるために、吐き出す気泡で輪を作って遊んだりすることが流行している。
 潜降索につかまる場合、ダイバーの人数が多いと、団子状になってしまう。流れが無ければ、潜降索を手放して、同じ深度を維持してゆっくり泳ぐ、最近では、ゆっくり泳ぐことは、窒素の放出に若干の役に立つのではないかと言われている。
 流れが強い場合には、ボートも流して、ダイバーと一緒に流れる。潜降索ではなくて、減圧索、長さ5mほどのロープに5キロほどのウエイトを着けてダイバーの数だけ下ろしてやれば、楽に減圧が出来る。潜降索に沿って浮上して、減圧ロープにつかまって減圧する。
 深い潜水では、減圧停止の空気が不足するおそれがあるので、減圧索とともに、レギュレーターを着けたタンクを吊り降ろしておく。
 最近では、減圧停止のためのタンク(6リットル程度)を別に持って潜ることも普通に行われるようになっている。

 なお、ダイバーが減圧停止に入ったからといって、ダイバーを完全に回収したわけではない。減圧の途中で、減圧症の症状などが発現する可能性もある。減圧停止の時のダイバーは不安定な状態である。もしも、一人で減圧をするような状況であれば、水面から、有線通話装置を下ろして、連絡を保ち続けるように配慮する必要がある。須賀は、減圧停止中に、若いダイバーを失った経験がある。
 減圧停止中の管理は容易であるのだから、目を離してしまわないように、連絡を切らないようにしなければならない。

6.7.5 ドリフトダイビング

 流れが強い、あるいは潜水中に流れが強くなる可能性のある場所では、流されることを予測して、あるいは意図的に流されて、ボートがダイバーの出す気泡を追って追跡し、浮上したら収容するとか、あらかじめ流されて行く先の浮上地点でボートが待っていて浮上するダイバーを収容したりする。これをドリフトダイビングと呼ぶ。
 黒潮とか、大きな海流に乗って船と共に流されて行くダイビングをブルーウォーターダイビングなどと呼ぶ。

 訓練生は、コーチ、リードダイバーと1:1のバディでなければ、ドリフトダイビングは禁止する。

 たとえ浮上地点が打ち合わせてあっても、ボートのオペレーターは全周囲を見張り、どこに浮上しても、見つけられるようにする。 ダイバーは、ボートオペレーターが見つけやすいように、空気を入れて膨らませ、海面に立てるシグナルブイを用意する。(必須)
 大事なことは、ボートオペレーターとリードダイバーの意気があっていることである。
 ダイバーは、よほどのことが無い限り、予定されたコースを変えてはならない。

 なお、流れが強くても、ボートも一緒に流れていれば、水面に浮上したダイバーとボートは、相対的に同じ速さで流されるから、流れが無い場合と同じである。アンカーを入れて、船を停止させたらたちまちダイバーは流される。
 ボートを流して、ダイバーを収容する場合、もしも二つのグループを同時に潜降させると、一つのグループを収容しているときに、遠く流されて離されてしまい、もう一つのグループを収容出来ない可能性もある。ドリフトダイビングでは、一つのボートからは,一つのグループで、必ず同時に浮上する。

 出来れば、流された終点が、岸に近くなるようなポイントがドリフトダイビングには適している。

 流れが一定せず、複雑で、ダウンカレントのあるようなポイントは、命がけであると知るべきである。訓練生レベルダイバーを連れて行くならば、責任を問われても仕方がない。

6.8 危機管理


6.8.1 レスキュー

 想定できる危機のすべてに対応できるように、危機が起こりうる順序で想定し、人員を配置し、対策を立てる。
 高齢化社会である。成人病、基礎疾患のある人でも、ダイビングは本人の責任で許容されるが、他に責任を転嫁することは、許されない。
 ボートダイビングでは、船上に幇助の人員を配置する。ボートオペレーターも一緒に潜水するような形は、行ってはならない。多人数が同時に潜水するような場合には、岸からのエントリでも幇助の人員を配置する。
 全員が救急救助の順序と役割を理解していなければいけない。  バディシステムの項でも述べたが、バディがトラブルで意識を失った、あるいは全く動けなくなった場合、岸からのエントリーでは、バディ一人だけで確実に救助できるとは期待しない方が良い。バディは、救急事態を引率するコーチ、あるいは水上にいて幇助する要員に危急を知らせて,救助を要請することだけしか出来ないかもしれない。
 バディは、危険な事態にならないように幇助するか、まだ自力で何とか泳げるが弱っている状態の幇助が出来るだけである。
 岸からのエントリーで、動けない、意識の無いダイバーを救助曳行しようとするのであれば、二人のダイバーが必要である。三人のフォーメーションであれば、救助できる可能性が高くなる。
 ボートダイビングであれば、ボートが接近して収容してくれるので、バディだけでの救助も可能である。

意識のなくなったダイバーを引き上げた後は、救急蘇生法を行うが、メンバーの全員が心マッサージの手技ができるようにしておく。AEDは、ダイビングサービスが岸近くにある場合以外は、期待できない。なお、あらゆる事態において、酸素吸入は有効である。
 救急蘇生法は、救急車が到着するまで続行する。
 引き揚げたダイバーは呼吸もせず、心停止して、顔色はチアノーゼであっても、救急蘇生法は続ける。たとえ時間が経過していても、死の判定をしてはならない。

6.8.2 サーチ

 もしも、バディが離れてしまって、ミーティングポイントにも現れなかった場合。予定されていた時間が経過してしまったならば、直ちにサーチ、捜索を開始しなければならない。
 なお、レジャーダイビングのダイビングポイントであり、他のグループのダイバーが居るならば協力を要請する。また、自分たちも協力を要請されたならば自分たちのグループが事故を起こした場合と同様以上に手助けしなければならない。
 ダイビングサイトにボンベの予備があり、他のグループも含めて、潜れる人員が残っているならば、見失った地点に向かって真っ直ぐに泳いで行く。必ずバディで。
 透視度が良くて、スキンダイビングで潜れる深さであれば、スキンダイビングでもサーチできる。ただし、捜索はバディシステム厳守である。通常のダイビングよりも厳しく実行する。
 リーダーは、二重遭難を防止しなければならないが、海況が良くて、余力が残っているならば、全力を尽くさなければならない。
 後に余力があるのに、捜索をしなかった責任を問われる可能性がある。捜索を行うダイバーは、ロープが役に立つ。器材の項で述べたように、ユニットではロープを用意しているべきである。
 地形を熟知していて、どのあたりにいるか想像できる場合、あるいは漁師の網などがあり、拘束されている可能性があれば、直ちに予測できる場所を捜索する。岸からのエントリーであれば、リードダイバーは、誰かをバディにして、自分たちが通ってきたコースを直ちに捜索する。したがって、エントリー前のブリーフィングは必須である。
 捜索を開始すると同時に、電話(携帯)などで、必ず救助を要請すること、あとで、たいしたことが無く終わっても、喜べば良いわけで、救助要請で責められることはない。

 岸からのエントリの場合、行方不明後、30分までが勝負である。30分が経過したら、ダイバーは全員引き揚げて、流されていると想定して、陸上からの目視捜索に切り替える。
 ボートダイビングの場合には、ダイバーによる捜索は、アンカーを入れて、船を停止させてから行うが、30分経過したら、すべてのダイバーを収容すると同時にアンカーを揚げて、流された想定の捜索に移行する。

6.8.3 保険

 ダイビング活動について適用できる保険は普通傷害保険、および生命保険である。
@トレーニングについては、グループ、あるいはユニットで、スポーツ安全保険に加入する。この保険は5名以上のメンバーで加入できる。この保険が適用されるのは、スポーツ活動のトレーニングに限定されていて、講習には適用されない。講習とトレーニングの境界については、期間を区切って、未知の事項を教えるものが講習であり、トレーニングとは、日常的に、繰り返し行って、技能を向上させるものである。
Aトレーニングではないと思われる活動については、DANの保険に加入し、活動の形態が、調査、研究などレクリエーション以外の活動であれば、DANのオプション保険に加入し、事業者が雇用する形態であれば、労災に加入する。ただし、DANの保険、労災保険には、賠償責任保険は付されていない。
B研究者、学生の保険については、学校が定める傷害保険(学生教育研究災害傷害保険など)に加入する。一般の場合には適切な普通傷害保険に加入する。これにも賠償責任の特約はない。
C危険が予測される場合には、グループの受け取りとして、支払い可能な金額の生命保険、もしくは傷害保険に加入する。多くのリサーチダイビング会社では、5000万程度の生命保険をかけている。

6.8.4 事故発生後の現場管理

 医師が死亡を確認するまでは、救急蘇生法を続ける。救急車に乗せることができれば、救急隊員にまかせてよい。
 救急隊員に任せたと同時に、家族、関係各官庁、団体に連絡する。
 認定されている活動ダイバーであれば、基準とマニュアルに従っている限り、事故者本人の失敗、あるいは落ち度があって事故が起こる。責任は本人以外にはない。しかし、この時点で、本人の責任を口にしてはいけないが、基準とマニュアルに従っている限り、陳謝する必要もない。警察などの取り調べに対しては、あった事実だけを述べ、サインをもらっているマニュアルなどを見せて、説明する。
 関係者に対しては、誠意と哀惜の情は示さなければいけないが、事故直後は、それにとどめる。説明が要求されるであろうから、自分が冷静に戻った時点で、詳しく説明する。 現在は多くの場合、解剖が行われるようになってきているが、事故後の解剖を必ず請求する。ダイバーの身体の内部の出来事、健康上の理由によることが、ダイビング事故の殆どだとも考えられ、それは本人以外に防ぐ手立てのない原因である。もしも解剖が受け入れられない場合には、訴えられないという書類にサインをもらう。

 事故発生後、起こった出来事、すべてを現場でメモをとり記録しておく。できるだけ周囲に居たダイバー、および観ていた人の、名前を聞いておく。何かの時に、証言してくれる可能性がある。
 かけている保険会社への連絡を行う。

6.8.5 事故報告

 再圧治療が必要であった場合、保険の支払いを受けるような事故、全てについて、協会事務局に報告されなければならない。

 報告は以下の項目を満たしている事。
 ●住所氏名、認定の種類、所属するグループ、電話番号
 ●ダイビング経験の概要
 ●潜水場所の説明、事故に至った経過と状況の説明
 ●治療についての経過と説明
 ●保険の支払われた状況

6.9 プロフェッショナルとソロ・ダイビングについて

 本協会では、プロフェッショナルの上級ダイバー、A級ライセンス、プロの水中カメラマンについて、ソロ・ダイビングを認めるような安全管理方法を研究するが、まだ活動ガイドを発表出来る段階ではない。。
 現状では、もしもソロ・ダイビングを容認したら、容認したことについての責任を問われる可能性もある。
 次の重要な研究課題である。

6.10 器材


6.10.1 器材の選定

 器材の選定は、グループ、ユニットが方針を立て、個人が選定するものとする。
 器材の選定は、それぞれのスタイルであり、またフィロソフィーである場合もある。
 できることならば、一つのグループは、器材の選定について、それぞれの装備について、統一があった方が良い。しかしながら、器材は毎年のようにかわって行く、固定した考え方では進歩の阻害になる。
 常に、装備については、グループ内で、あるいは分野ごとに使用結果をフィードバックして議論があり、さらにその議論を協会全体に知らせて、選択の目安としたい。
 メンバーは、器材の選択については、必ず、ユニットのリードダイバーあるいは、グループのコーチにも相談する。
 しかしながら、購入を勧めたリードダイバー、コーチの判断もその時点での選択であり、器財は日進月歩である。ベテランダイバーであっても、器材の選定は試行錯誤を続けているものであり、新しい型式の器材が売り出される度に、使ってみたい、使ってみて効果を試したいと思うのが常である。また、クラシックな器材にこだわっているダイバーも居る。
 グループ内での議論が必要な所以である。
 器材の選定については必ず選定理由があり、理由は試行の結果の裏付けが必要である。

6.10.2 メンテナンス 整備

 ユニットに一名は器材の整備、応急修理ができる人が欲しい。必要工具と応急部品も持参する。

工具
プラス・マイナス ドライバー
六角レンチ
モンキースパナー
プライヤーレンチ
ステンレス鋏
BCD.のインフレーター修理用治具

応急部品
オーリング
 バルブとレギュレーターの接続部分
 レギュレーターの中圧、高圧ホース取り付け部分
グリース
ビニールテープ
   

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